「下剋上って意味、知ってるか?俺いけると思うんだけど」
なあ、とどこか切ない笑みを浮かべた、旧知の男に、元就はぼんやりとうつろな目を向けた。
冷たい床に転がされた体は冷え切って、体にまとわりつく着物は肝心なところを隠しもしていない。
そこここにぺたぺたと張り付いた白い液体は固まって、流れ落ちる筋がそのまま白く血の気の失せた足に模様を描いていた。
つい先ほどまでの熱などさもなかったかのように、暗く閉ざされた部屋は寒い。燃え尽きた蝋からはおかしな匂いが漂って気持ちが悪かった。きっと質の悪いものなのだろう。
なあ、ともう一度繰り返されて、暖かいてのひらが元就の骨ばった肩を撫でた。
ぞくりと鳥肌が立って、横向きに転がったままゆっくりと目を上げて男を確認する。
無造作に単衣を羽織っただらしのない格好で晴久がくくくと笑った。
「淫乱ってこういうの言うんだな。お高くとまった謀神さまが聞いてあきれるぜ。まるで娼婦みてぇじゃねえの」
「戯言を」
ぽつりと呟く元就の声はかすれて聴き取り辛い。
散々啼かされ、喘がされた喉は限界だった。水が欲しい、と視線を彷徨わせて水差しを探すが、近くには何も置かれていない。まるで気が利かぬ男だ、と思ったが、もしかすると晴久の嫌がらせなのかもしれなかった。そういう、子供じみた嫌がらせが大好きな男だ。
だから、行為の最中に気が高ぶって髪の毛を痛いほど掴まれても、痕を残そうと必死に体のあちこちを噛まれようと、いちいち反応しては逆効果なのだ。
それでも痛ければ声が出るしもう無理だと思えば阻止の言葉を吐く。
そうしてぎりぎり拷問めいた暴力が数倍になって返ってくるのだ。
凌辱ごっこにすぎぬ。おのれの、子供のような支配欲を持て余して元就にぶつけているだけの。
ただそれが性行為を伴っている時点で可愛げの欠片もないのである。
何故それを許すのか、元就自身にもよく分からなかった。
ただぞんざいな愛撫の後に急にねじこまれる熱さや、歯をたてられ肌を傷つけられる痛みや、泣いているような罵声を浴びることで、ああこんなにもこの男の中には毛利元就という人間の存在が大きいのだな、と確信しては満足するのである。
だから、元就が晴久のものではない。晴久が元就のものなのだ。ただ許容しているだけで、きっともう二度と許さぬと言えば彼はそれこそ何も分からぬ子供のように狼狽し、泣くだろう。
そろそろと晴久の手が伸びて、布の間から手を差し入れてはさっきまで散々なぶった尻をするりと撫でる。何故この男はこうも体温が高いのだろう。
ふ、と息を吐くと、誘っているとでも勘違いしたのか、ごつごつとした指が一本するりと中心に触れて爪の先でひっかくように入り口にいたずらを仕掛けた。
すっかり乾いているが晴久が吐き出したもので汚れている。
「ん、晴久、よさぬか」
戯れも過ぎるぞ、と文句を言ったがどうせおとなしく聞きいれるはずもないのだ。
どこかでそれを望んでいる自分もいて、ああきっと、溜まっているのだなとぼんやり他人事のように思う。
「まだ宵の口だぜ。それに俺三回しか出してない」
「もうじゅんぶんではないか」
「とか言いながら何だよその目」
色香垂れ流しやがって、とにやにや笑いながら、晴久はぐいと元就の肩にかける手に力を入れて仰向けに転がすと覆いかぶさった。ぐったりと力の抜けた片足を持ち上げ、今度はしっかりとした意図を持って尻の穴に指をぬぷりと入れてかき回す。
「ふ、う、やめ」
「もっと、て言ってるみたいに聞こえる」
もう一度濡らした方がいいかもしれない。
そう思って、晴久は穴をえぐろうとしていた指を元就の口元へと持っていく。
当然嫌がるように顔をそむける元就だったが、空いたもう片方の手で頭を押さえて無理やり口の中に突っ込んだ。
おぞましげに顔を歪ませる元就だったが咥内をかきまわされぐちゃぐちゃと唾液を絡ませられるともうどうでも良くなったのか、必死に指を追って舌を絡める。
唇から溢れた唾液が顎を伝って零れ落ちるのを晴久が舐め取った。