俺は猫と一緒に暮らしている。
決して「飼っている」わけではない。そんな事言ったらまじ俺殺されちゃう。ああほら怒るなって、にゃんにゃん。
この猫は猫らしく、非常に ふりいだむ である。
ふわふわだしいい匂いだし大層な美人なので、片時も離れたくない。
朝も昼も夜も抱っこしてくんくんぺろぺろちゅっちゅしたい。どこもかしこも口づけてベトベトのジュルジュルにしたいくらい可愛い。
目に入れても痛くはないが、どちらかというと俺は口の中に入れたい。
丸っこい小さな頭とか、すぐ赤く染まる耳とか、かわいらしくツンと尖る乳首とか、形のいい丸いへそとか、ちょっと刺激してやるとすぐ反応しちゃうアソコとか、すべすべのお尻とか、その奥にある穴とか、意外な性感帯であることを最近発見しちゃった膝の裏とか、すごく感じちゃう足の指とか、とにかく口に入れたくて仕方ないのだ。
声も良い。
普段凛として張りがあり、どんな遠くにいても聞こえる通る声もいいけれど、俺の下でアンアン鳴く声は甘くみだらで、とてもいい声なのだ。ああたまらん。ひきつったような、あの悩ましい声をかみ殺す仕草も可愛い。もっと、その鳴き声を聞きたいけれど、いつも俺は途中でたまらなくなって唇ごと口の中に入れてしまう。
この猫は実はあまり口づけがうまくない。そこがまた可愛い。体は素直に反応するのに口は達者で、それなのに力が抜けるといやらしい鳴き声でいっぱいになる。
口づけに関しては俺はちょっと自信がある。西海の鬼だし?股間の富嶽もけっこうすごいんだぜ!まあそれはまた今度な。
ともかく、口づけについては俺が積極的に教えてやらねばならない。いやがる、いやむずがるのを押さえつけ、なだめすかし、あやして、何とか口の中を舐めまわすのを許されるとあとはなし崩しである。
最近ようやく息継ぎの仕方を覚えたが、口の中に気を取られすぎてなかなか鼻で呼吸をすることが難しいようだ。途中唇を離して背中を軽く叩いてやるとはふはふするのが可愛い。ほっぺたも目元も唇も真っ赤にして、すがるように俺の首に手をまわして上目づかいに睨まれると俺の富嶽は火を噴く寸前だ。けれどここで焦ってはいけない。殺されちまうから。
涙に濡れた目がいやらしく男心をくすぐる。そんな顔俺以外のやつに見せちゃ駄目だぜ子猫ちゃん★
にやにや笑いながら観察していると、猫がむっとしたように唇を尖らせ、挑発するように俺の上に乗っかってきてつたなく口づけしてくるのが可愛い。いやもう、最初は勢いに任せるもんだから歯がごつんとあたって唇切れちゃったりもしたけれど、ようやく加減というものをおぼえたらしく、はじめは反応を確かめるようにおそるおそる、俺がぺろりと舐めてやればようやく安心するのか、競い合うように唇を舐め舌を絡めてじゅるじゅる唾液を吸うのだ。これが甘い。いや雰囲気が甘いとかじゃなくて、この猫の味が甘い。いつも甘い菓子を食ってるからだろうか、いつだってふわりと甘い味がする。もしかしたらこいつの体も甘いんじゃないかと、何度か甘噛みしてみたことがあるが、歯型を残してしまって半殺しの目にあった。だから今では歯をたてずにちゅっちゅするだけにとどめている。最初はくすぐったそうにしていたがもう慣れたらしく、ちょっと身をよじってくすくす笑う仕草が可愛い。俺何回可愛いっつった?数えてみてくれよ。
そもそもこの猫とは敵対関係だった。けれどなんやかんやあってあれでこれでこうなって、結果、俺と猫は国の主という立場を跡目に譲り、気ままに暮らしている。そうは言いつつどっちの領地も行ったり来たりしているので今までとあまり変わりないと言えばそうとも言える。けれど朝目が覚めたときに隣にこいつが寝ていて、昼間一緒に釣りに行ったり城下町を探索したりして、夜も一緒に寝るのだ。幸せだ。可愛い。
あ、こんなこと書いているうちに猫が戻ってきた。身内が土産を持ってきたとかでちょっと席をはずしていた隙にこんな文を書いているわけだが。
「元親。何をそう真剣に書いているのだ」
「あ?あー。うん。猫日記」
「はあ?猫とはたまに餌をねだりに来るあの野良のことか」
「いや、もっと高貴でわがままで可愛いやつ」
それにえろい、と付け足すと、元就の眉間に深い皺が刻まれた。
見せてみろ、と襲ってくるのを元親はひらりとかわし、くるくると丸めて懐に入れてしまう。
「何だ、我には見せられないものか。春画か」
「ちげーよ誰が猫の春画なんかで興奮するんだよ!これは駄目っあんたに渡そうと思ってやめた恋文だよ」
「理解できぬ。常にともにあるのに何故わざわざ文を書く必要があるのだ。どうせ女でも口説くつもりだろう」
嫉妬か、可愛いなあ、と笑いながら小さな頭をぐりんぐりん撫でまわした。優しく撫でるよりも多少乱暴なくらいが怒られない。女にするような態度が気に食わないらしい。なので、撫でる時も抱きしめる時も、それ以上のときもちょっぴり手荒に扱う。それで喜ぶのだから、ひょっとしたら元就ってば・・・などと口が裂けても言えない。殺されるに決まっている。
「なあ元就」
「なんだ」
話をそらすのか、と不機嫌そうにむっとしている元就の顔を上げさせて、元親は屈みこんで彼の頬を今度は優しく手の甲で撫で上げた。
「目、閉じてくれ」
「・・・ん」
唇を舐めるとぴくぴくと閉じたまぶたが痙攣するのが可愛い、と元親は思った。無意識のうちにしがみつくように元親の胸元を掴むのも、少し背伸びをするのも、舌を出す機をうかがっているような様子も、心臓を鷲掴みされるほど愛しいのだ。
(やっべえ、股間の富嶽が噴火しそう)
もぞもぞしているうちに、ぱっと目を開いた元就が至近距離で囁く。
「そなたも堪え性のない男だ。まるで我が侭な猫よ」
ちゅっちゅだけじゃ物足りない。
飲み込んで・・・俺の、富嶽。